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視察報告:道後オンセナート2014 ①

2014年7月31日 5:07 AM
視察報告:道後オンセナート2014 ①

愛媛県松山市道後温泉で開催中の《道後オンセナート2014》へ

《道後オンセナート2014》、その名の通り「道後温泉+アート(DogoOnsen Art)」で道後温泉界隈で展開されているアートプロジェクトです。道後温泉本館改築120周年事業の一環で実施され、青山スパイラルを運営するスパイラル/株式会社ワコールアートセンターが2012年度から松山市と準備をしてきました。

「道後温泉本館」とは、松山市・道後温泉のシンボルでもある建物です。

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道後温泉本館(以下:本館)は明治27年に改築された近代和風建築の公共温泉施設であり、1994年には国の重要文化財にも指定されています。明治27年、当時の町長・伊佐庭如矢が老朽化した本館の改築にあたる際、「100年たっても真似できないものをつくってこそ価値がある」として莫大な費用をかけて建設した道後温泉のシンボル的存在でもあります。
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今回は本館の改築120周年記念事業として道後温泉をより多くの人たちにより深く知ってもらうためにアートプロジェクトが実施されています。温泉街のアートイベントと言えば、すでに別府市の《混浴温泉世界》、群馬県中之条町の《中之条ビエンナーレ》など先行事例は多数あり。「温泉街」というだけでは特に目新しいわけでもありません。

しかし、ここのメインは「温泉宿」のプロジェクトというのが面白いところです。こんな方法もあったのかと思わせる作品もあり、驚きの連続と同時に素直に楽しめるという点で興味ぶかいイベントです。もちろん、初回開催ということの知名度不足・周知不足、全国的な競合事業の増加、さらに温泉宿とのコラボレーションという特異な条件下で運営されており、他の芸術祭と同様に作品を見て回ると多くの困難に出会います。とくに作品へのアクセスはいささか注意を必要とします。本レポートでは作品の見どころも含めて訪問前に知っておいた方がいいポイントを紹介していきます。

 

今回の見どころは温泉宿とアーティストとのコラボレーション《HOTEL HORIZONTAL》です。

 

公式HPコンセプトより。
「道後地区の9つのホテル・旅館に泊まれるアート作品群が誕生。 部屋ごとに担当するアーティストを決め、客室を作品化。 実際に宿泊できる作品としてインスタレーション(空間演出)を施します。HOTEL HORIZONTALの総合テーマは「最も深い夢 The deepest dream」。道後地区にあるホテル・旅館が水平的(horizontal)に連携し、 架空のホテルとして皆さまをお迎えします。」

http://www.dogoonsenart.com/about/

 

作品に宿泊できるというのは他にもありますが、道後オンセナートはアーティストが何とも豪華で多様です。

 

参加アーティスト
1)荒木経惟(写真家)
2)石本藤雄(家具デザイナー)
3)KIKI(キキ)(モデル)
4)草間彌生(美術家)
5)ジャン=リュック・ヴィルムート(美術家)会場:道後やや
6)谷川俊太郎(詩人)『はなのいえ』 会場:道後舘
7)谷尻誠(建築家)会場:道後プリンスホテル
8)葉山有樹(陶芸家)『藍』 会場:ふなや
9)皆川 明『ロ』 会場:花ゆづき
※宿泊者以外も見学できるよう、各ホテルに一般公開時間が設けられています。

 

様々な表現ジャンルの第一人者が宿泊部屋の作品化に挑んでいます。しかも、ベテラン御歳85歳の詩人・谷川俊太郎氏から若手ではモデルのKIKI、そして新進気鋭の建築家・谷尻誠が名を連ねてます。 そのほか街なかに作品展開する「オンセナートコレクション」では、中谷不二子の《霧の彫刻》、ライゾマティクスによる道後温泉本館のプロジェクション・マッピングなど、道後温泉本館のライブイベント「アートパレード」等が催されます。
プロジェクション・マッピングはすでに終了してしまっていたのと、街なかプロジェクトは設定時間がピンポイントのため、道後温泉に宿泊していなければ見学できません。ここは注目の温泉宿とアーティストのコラボレーション作品《Hotel Horizontal》にフォーカスして紹介していきます。

 

1、《Time Science》ジャン=リュック・ヴィルムート×道後やや

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「世界のリアリティとの対峙する」このテーマで制作活動を続けているフランスのアーティスト・ジャン=リュック・ヴィルムート、道後ややではホテルの一室を改装して、旅の一幕を過ごす部屋、さらに旅における時間感覚との出会いをコンセプトに作品制作が行なわれています。

Jean=Luc Vilmuth
http://www.jlvilmouth.com/vilmouth.com/index.html

国内では越後妻有の《カフェ・ルフレ》(2003)が有名ですが、ここでは外部世界との接続ではなく、自身の内的世界あるいは時間感覚との接続をテーマにしています。P1030643

部屋自体は一見オシャレなデザイナーズホテルといった感じですが、部屋に配置された3つの時計が異なる時間の存在を教えてくれます。それぞれの時計から時間が波のように広がる様子が地図の等高線のように描かれ部屋の静けさとともに広がって行きます。 ともすると「時間を忘れて過ごす」のですが、ここでは日常で無意識に過ごされる時間を意識化させ、時間の不可逆性とその儚さを改めて感じさせてくれます。

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話は変わりますが、道後温泉に来てみれば何となく感じられるのが時間感覚の違いです。いかにも地方鉄道らしい伊予電の路面電車駅「道後温泉」を降りたつと、そこには時間に追い立てられ、先を急ぐビジネスマンサの姿もなければ、購買意欲をかき立てるやかましい音楽も商店もありません。商店街はアーケードになっており自転車もあまり通らず、通りを行き交うのは歩行者のみでゆっくりとした速度感しかありません。細い商店街を抜けて行くと道後温泉本館に至り出てくる人は温泉で上気ぎみ、ゆっくり涼みがてら飲み物を片手に街を行き交います。

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生活スピードをぐっと落とすような速度感は温泉宿独特のものです。
商店街の小道を抜けたところにこのジャン=リュック・ヴィルムートの宿「道後やや」は存在します。

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現代における管理活用の対象となった「時間」、ここでは道後温泉における時間との出会いを視覚的に演出しています。
※予約なしでも見学可能かもしれませんが念のため訪問の際は予約をおススメします。
帰り際には訪問記念としてアーティストが制作したオリジナルハンドタオルをもらえます。

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展示期間|2014年4月10日- 2015年1月12日
見学時間|12:00〜15:00(10分)
見学料金|1,000円+税
お問合せ|089-907-1181
SITEURL|http://www.yayahotel.jp/

 

2、《わが魂の記憶。そしてさまざまな幸福を求めて》 草間彌生×宝荘ホテル

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あの水玉と一晩過ごすのか!と驚嘆せざるを得ないプロジェクトがここ宝荘で実現しています。草間水玉をこよなく愛するファンには必見というより必滞在のホテルです。ユニークな試みであるがゆえに宿泊せずとも見学だけでも十分楽しめます。ちょっとした水玉テーマパークのような場所になっています。好みにもよると思うので体調が芳しくない人は温泉で元気になってから訪問されるとよいでしょうか。水玉パワーに元気をもらえるという方は何度でも訪問されてください。草間水玉で全面に埋め尽くすされた部屋をどのように楽しむかは見る人次第です。
「ユニーク」と言ったのは、もはや作品を見るということが多様すぎてよく分からないからだ。ベッドでくつろぐもよし、各所で記念写真をとるもよし、ゆっくり座って細部に施された水玉を探すもよし、興味本位で押し入れやトイレをのぞくもよし。部屋中に配された無数の「水玉(草間)」との出会いを楽しむのがポイントです。

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部屋の入口を空けるや否やさっそく本人登場。

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もはやエンターテイメントのアトラクションの世界です。
部屋に入ればそこは水玉世界です。 いたる所に草間ワールドが炸裂しています。

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押し入れを開けると

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ショーウィンドウならぬショークローゼットです。水玉マネキンが登場します。
テレビ上の戸棚を開けると。

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何のスペースなのかは分かりませんが、ものを置いてはいけなさそうです。
さらに、なんか気味の悪い話し声が流れてきます。

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カーテンを開けると。

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そこにもご本人が。何とも芸が細かいです。

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板間には世界に唯一の飛び出すかぼちゃです(正式な作品名があるのでしょうか)。

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ゲストブックも自由に閲覧可能です。

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一生の思い出になったとのことです。
「確かに」と妙に納得してしまいます。
壁には草間氏の若かりし頃の記録写真が貼られています。

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宿泊することができれば、草間水玉と戯れる一晩ともいえるでしょうか。
草間彌生の水玉は人の視線を惹きつける強烈な吸引力があり、各地のアートイベントでも引っ張りだこで多くの作品を見られるようになりました。しかし、その水玉が本来は何を意味しているのか、またどのような精神的営みから紡ぎだされてきたのかはなかなか作品を一見するだけでは難しいところです。
しかし、これだけ水玉イメージを長時間のシャワーのごとく浴びてくるとその色彩的な楽しさとは異なる何か違うものが見えてくるでしょう。また部屋に貼られた過去のパフォーマンス記録写真が水玉のもうひとつの側面を見せてくれています。
この部屋が刹那的に消費される水玉を越えて草間作品により深く触れることができる場所なのかもしれません。
それゆえにやはり宿泊した方が草間氏の表現とよく向き合えるのかもしれません。一生の思い出になるのであればそこまで高くはないかもしれません。

※作品コンセプトのためかR15指定となっています。
※見学には要事前予約です。

展示期間|2013年12月24日—2015年1月12日
見学時間|11:00〜15:00(15分)
受付時間|10:00〜 見学料金|1,000円(税込)
年齢制限|15歳以上 お問合せ|089-931-7111
SITEURL|http://www.takaraso.co.jp/hotel_horizontal/

その②へ続く。