2月13日(木)14日(金)の2日間でドイツ、カッセルにあるドクメンタ・アルヒーフの視察に行ってきた。
http://documentaarchiv.stadt-kassel.de/
ドクメンタは1955年にスタートし5年に一度開催されるドイツの現代美術展、次回の2017年開催で14回目を迎える。カッセルはヘッセン州第3の都市で人口は20万人ほどドイツでも中規模の都市に位置づく。欧州における芸術祭としてはヴェネツィア・ビエンナーレと双璧をなし、同芸術祭とともに現代美術界への強い影響力をもつ。しかし、ヴェネツィアは世界有数の観光都市であり年中絶えず観光客が押し寄せてくるが、カッセルは観光でも産業でもヴェネツィアほどの都市基盤を持ち合わせていない。そんなカッセルのドクメンタがなぜ世界最大の芸術祭となりえたか、その秘密について誰もが興味をもつところだろう。
秘密の鍵はもちろん過去の実績にある。ドクメンタはヴェネツィア・ビエンナーレと同様に専属のアーカイヴ施設を有している数少ない芸術祭のひとつだ。芸術祭におけるアーカイヴの位置づけや役割について、ドクメンタ・アーカイヴでディレクターを務めるDr.ゲルト・メルシュ氏に伺ってきた。ここではブログなので簡単な訪問の報告となります。
メルシュ氏について、私はアーカイヴの館長というだけに勝手に初老の男性を想像していた。しかし、実際の本人は何とも若い方だった。アーカイヴに来る以前はドクメンタ(13)でキュラトリアル・スタッフとしてドクメンタで働いていたとのこと。アーカイヴのディレクターに就任してまだ半年あまりだが、職場にはすでに馴染んでいる様子だった。日本と同様に客人を迎えるように私にコーヒーを提供してくれ、私がアーカイヴに来た理由を逆にヒアリングされ、日本の国際芸術祭と呼ばれるプロジェクトのアーカイヴ事情とその課題に関して自分の思うところを話した。目的をよく理解してくれたのか、今度は私に必要と思われる情報提供の準備をしてくれた。アーカイヴというだけに部外秘の性質が強いかと思いきや(ヴェネツィア・ビエンナーレ・アーカイヴのように)、ここは全くその素振りはなくオープンに対応してくれた。ただ条件がひとつある。アーカイヴ事業に関する紹介記事等を執筆公開する場合には事前にディレクターの許可をとることだ。逆にその条件を守ることで、撮影やインタビューに対して完全にオープンに対応してくれた。担当スタッフに私を紹介し、ヒアリングの段取りも調整もしてくれ、すべてのスタッフが皆親切に対応してくれた。そのせいもあったか、今回のアーカイヴ訪問をとても気持ちよく終えることができた。
すでに70年近い歴史を有し世界に誇る芸術祭となったドクメンタ、これを末永く継続させて行くためにアーカイヴがある。5年に一度とはいえ、開催するごとに資料の量は増えていく。前回の資料整理が終わる頃にはもう次の資料整理業務が始まる。ここでは終わりのない資料整理の日々が続く。果てしない作業には達成感が少なく、暗く憂鬱になりやすい。作業スタッフにかかる負担も大きいだろう。しかし、ドクメンタ・アーカイヴのスタッフたちに出会って驚いたのは、皆本当に明るく親しみやすい性格の人たちが多い。基本的に皆が「無理せず楽しく仕事をしよう」という姿勢なのだが、それは終わりなき業務を円滑に進めるために長年積み上げられた経験の集積にも見える。先達の知見を受け継ぐ営為自体にも独自の「知」が必要と改めて感じた訪問だった。
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