CIANロゴ

ヴェネツィア・ビエンナーレ・ライブラリー&アーカイヴ訪問

2013年9月30日 3:40 PM
ヴェネツィア・ビエンナーレ・ライブラリー&アーカイヴ訪問

欧州にはすでに長い歴史を有する国際美術展があります。なかでもヴェネツィア・ビエンナーレとカッセル・ドクメンタは現代アート関係者であれば知らない人はいないでしょう。
そして、どちらもしっかり専属のアーカイヴ機関を有しています。国際芸術祭におけるアーカイヴの先行事例として私たちも学ばなければなりません。幸いにも現地訪問できる機会を得られたので、訪問先の方針もありますのですべてとは行きませんが少し紹介していければと思います。

ヴェネツィア・ビエンナーレ・アーカイヴ ASAC

http://www.labiennale.org/en/asac/index.html

ヴェネツィア・ビエンナーレ・アーカイヴはASAC(Archivio Storico delle Arti Contemporanee)の一部門であり、ライブラリー部門とアーカイヴ部門に2つに分かれています。場所も異なり、ライブラリー部門はヴェネツィア・ビエンナーレのメイン会場である「ジャルディーニ」のメインパヴィリオン内にあり、アーカイヴ部門はヴェネツィア本島から離れたポルトマルゲラ地区にあります。

ipp
ライブラリーエントランス

ipp

ライブラリー閲覧室。

スタートしてから一世紀以上の歴史を有するヴェネツィア・ビエンナーレだけにライブラリーの充実は圧巻の一言でした。
蔵書は現在およそ13万冊、美術関係書籍や展覧会カタログを中心に収集されています。
まさにビエンナーレオフィスの情報収集センターといった様相です。ビエンナーレ開催期間中にはレクチャーやシンポジウム等もこの場所で実施されます。

立派なのはライブラリーだけではありません。

P1000193

VEGA(VEnice GAteway for Science and Technology)
(ヴェニス科学技術ゲートウェイ)

ビエンナーレ・アーカイヴはヴェネツィア本島からバスで10分ほど行ったポルトマルゲラという地区あります。VEGAという複合研究施設の一角にアーカイヴが存在します。

01_P1000199

アーカイヴ入口

01_P1000202

アーカイヴ・エントランス

ヴェネツィア・ビエンナーレと言うと、アート関係者だとアートと建築のビエンナーレを想像しがちです。
しかし、ヴェネツィア・ビエンナーレには上記の他にダンス、音楽、演劇、映像と様々なジャンルのビエンナーレで構成されています。さらに、このビエンナーレ・アーカイヴでは全てのジャンルの運営事務局から発生する移管資料を受入れているとのことです。資料の膨大さを容易に想像できます。2003年に元々、本島にあった施設を現在のVEGA地区に移転させたのも、資料保管スペース拡充が目的です。アーカイヴには保管スペースはどこも必ず問題になるようです。

残念ながらアーカイヴ内は原則撮影禁止のため写真紹介をできません。ディレクターの方針だそうです。雰囲気だけお伝えすると閲覧室は10名ほどの人が座って閲覧できるスペースがあり、窓口に2名スタッフがいて資料請求を受け付けています。訪問時にはすでに3,4名ほどの研究者が資料を閲覧していました。資料庫はビエンナーレのキーカラーである赤を基調とした保管棚で構成され、専用のアーカイヴボックスが整然と並んでいます。保管資料数は歴史資料だけでもおよそ300万点以上、写真もポジフィルムだけで60万点と膨大さを極めます。その他にアーティスト資料、映像資料、音声資料と保管メディアも多岐に渡ります。アーカイヴ業務に携わるスタッフはなんと4名+アルバイトというからさらに驚きです。スタッフの専門性も美術史や歴史学でいわゆる「アーキヴィスト」はいないとのこと。さきにも書きましたがヴェネツィア・ビエンナーレは100年以上の歴史があります。それが2年おきに大イベントを実施し、世界中から多くのアーティストがここヴェネツィアに集い、作品制作と展示を行ないます。資料は基本的に人の営みを記録し、そこで生まれた知恵を外に伝えて行く存在であれば、ヴェネツィア・ビエンナーレのような一大事業はアーカイヴするには営みの数が多すぎるのは明らかです。というか、物理的に対応することは無理としか言いようがありません。それでも、これだけの費用をかけてライブラリーとアーカイヴを維持しているのは、先人の営みや知恵に対する価値の認識と敬意の表れとでも言えるでしょう。歴史が尊重されなければ歴史は繰り返される、ただその一点につきるかもしれません。
本当にはアーカイヴに関する詳細な報告をできれば良かったのですが、先方の方針もあり訪問の雑感までとして記述を終えたいと思います。